宮崎家庭裁判所日南支部 昭和44年(日記)107号 審判 1969年7月21日
申立人 大川友三(仮名)
相手方 大川秀子(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
申立人は、「相手方は、別紙目録記載の物件について譲渡、質権抵当権、賃借権の設定、その他一切の処分をしてはならない。」との審判を求め、その理由として、申立人と相手方は夫婦であるところ、申立人は昭和四四年七月七日相手方に対し離婚、財産分与、慰藉料請求調停の申立を当庁になしたが、申立人と相手方およびその親族との対立がはげしく、相手方およびその父大川晃は別紙目録記載の物件(以下本件物件と略称)についてこれを他に売却または賃貸しようとして奔走している模様であるから、本件調停または審判があるまでの間その処分を禁止する必要があるので、仮の処分として本件物件についての処分禁止の審判とその登記の嘱託を求めるものである。と述べた。
筆頭者相手方の戸籍謄本および申立人の審問結果によると、申立人と相手方は昭和三六年八月二三日相手方の氏を称する婚姻をして事実上、いわゆる婿養子の結婚をし、爾来申立人は常時漁船に乗船する職業に就事して、相手方とその間の子の家庭生活を維持するため毎月二万円から最高一〇万円に達する生活費の送金をしてきたのに、相手方は申立人の乗船不在を奇貨として、昭和四二年頃から男性関係をもつようになり、ついに昭和四四年四月からは離婚を求めて家出してしまつたもので、申立人としては婚姻継続は困難とみてここに離婚を求めざるを得なくなつたのであり、そこで相手方への慰藉料、財産分与請求をあわせて求めているが、相手方の財産としては本件物件が唯一のものであり、然も申立人とともにこれを保持してきたものであるから、相手方およびその父大川晃においてこれを他に処分する心配があるので、その処分禁止の措置を必要とすると考えていることが認められる。
しかして、離婚請求とともになされた慰藉料、財産分与請求事件はいわゆる一般調停事件であつて、いわゆる乙類調停事件ではない。蓋し、慰藉料請求部分が乙類調停事件でないことはいうまでもないところ、財産分与請求部分は形式的には乙類調停事件のようにみえるけれども、しかしこの場合の財産分与請求は、離婚成立後になされたものとは異なり離婚成立を停止条件とする条件付申立であるから、離婚が成立しない限りそれのみを独立した申立として取扱うことは許されず、また離婚の合意が成立しても財産分与について合意が成立しないときは、当事者が両者を分離して調停をまとめることを同意しない限り、やはり一体的に調停不成立となり、右同意がある場合にのみ、離婚につき合意、財産分与につき別途に協議決定する旨の合意をして調停成立とし、あらためて財産分与の申立を要するものと解すべきであるから、これを家事審判法二六条にいう調停不成立の場合審判に当然移行する乙類調停事件とみることはできないからである。
そうすると、いわゆる乙類調停事件については調停手続進行中においてもなお審判前の仮の処分をなし得るとの解釈をとり得るとしても、本件の場合は上記のとおり乙類調停事件ではないから、審判前の仮の処分をなすことはできないものというべく、したがつて、本件申立にしたがつた審判前の仮の処分としての処分禁止の審判をすることはできない。結局家事審判規則一三三条にもとづく調停前の措置として相手方に処分禁止を命ずることにとどまらざるを得ないものである。なお、この調停前の措置には同条二項により執行力がないから、申立人の求める処分禁止の登記嘱託をなすこともできない。
なお、申立人としては、この場合離婚にもとづく慰藉料ならびに財産分与請求権を本案とする民事訴訟法上の仮処分を求めることができると解する。
よつて、本件申立は、家庭裁判所の職権発動を求める申立ではあるが、審判前の仮の処分をとくに求めた申立人の手続上の地位を考慮し、これを却下する旨の審判をするを相当と思料し、主文のとおり審判する。
(家事審判官 渡瀬勲)